Vol.14『静けさの中の朝、渡るコーヒーの温もり』【明治葬儀社編】

Vol.14『静けさの中の朝、渡るコーヒーの温もり』【明治葬儀社編】
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――盆の町の空はまだ青みがかった灰色に覆われ、谷中の路地には昨夜の線香の香りが微かに残っていた。
蝉の声も目覚めきらず、町全体が夜と朝の狭間で息をひそめていた。

風野旅人は白い軽ワゴン車をそっと停め、静かにドアを閉めた。
汗ばむ額を袖でぬぐい、胸の奥には仏間の白檀の香りと夜明け前の冷たい空気が残っていた。

石畳は夜の名残の冷たさを残し、軒先の盆提灯が赤い光をかすかに揺らしていた。
風鈴が一声だけ音を立て、どこかの家の線香の煙が朝の空に細く昇っていく。
遠く商店街の奥で箒の音、古びた木戸の開く音。町は少しずつ目覚めていた。

明治葬儀社の引き戸を開けると、冷房の涼やかな風と白檀と書類の匂いが旅人を包んだ。
デスク脇に立つ美月が顔を上げ、驚きのあとに微笑んだ。
「おはようございます、旅人さん。早いですね。」

「おはようございます。搬送があって……今、戻ったところです。」

「そうでしたか。お疲れさまでした。」

旅人はふと尋ねた。
「美月さんこそ、こんなに早く……何かあったんですか?」

美月は窓の外を見やり、少し照れたように笑った。
「町の音が気になって、早く目が覚めたんです。盆の朝の音って、不思議と心に残るんです。……だから、事務所に来た方が落ち着く気がして。」

旅人はその言葉に胸が温かくなるのを感じた。
「……町の音、ですか。」

軒先の風鈴、石畳を掃く箒の音、どこかで井戸の水をくむ音──町の祈りと暮らしが重なる音が、静かに広がっていくのを旅人は感じていた。

「よかったら……」
美月が紙コップを差し出した。
「まだ温かいですよ。」

コーヒーのほろ苦い香りが立ち、旅人の胸の奥にしみた。
「ありがとうございます。」

「今朝の搬送、大変でしたか?」

「ご家族が、ずっと手を合わせておられました。送り出すときも、穏やかな時間でした。」

美月はそっと目を伏せ、静かな祈りをその胸に抱くように小さく息をついた。
「……よかったです。」

「三枝さんは?」
「片付けを終えて、自宅に戻られました。お疲れのようでしたので。」

「そう……あの方は、自分のことは後回しですものね。」

奥から神田がゆっくりと現れ、顔を洗った後のように髪を撫でつけていた。
「おう、旅人。朝から働き者だな。」

「おはようございます、神田さん。」
旅人が頭を下げると、神田は小さく笑った。
「今朝の搬送か。……無事に終わったならよかった。」

「はい、無事でした。」

宮内も奥の戸口から姿を見せ、準備表に目を落としながら言った。
「盆の朝は空気が違うな。……少しピンと張り詰めた感じがする。」

「ええ。」美月が静かに頷く。
「だからこそ、私たちも気を引き締めて動きましょう。」

神田は進行表を一瞥し、低い声で言った。
「じゃあ、段取り確認して始めるか。」

窓の外では、石畳の上に朝日が静かに降り、町の音が一層はっきりと広がっていた。
盆提灯が赤い光をかすかに残し、祈りを捧げる声がどこからともなく届く。
仏壇の前に座る老夫婦、子どもに手を合わせさせる母親──それぞれの祈りの姿が、町のどこかに確かにあった。

旅人は、その光と音、香りのすべてを胸にそっと刻んだ。


黒革の手帳 1995年8月14日

町の静けさ、盆の朝の祈りの声、白檀の香、風鈴の音。
美月さんの声、渡されたコーヒーの温もり、社内の朝の会話。
谷中の町の光と影が、胸に深く残った。
小生、風野旅人。

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悠々自適なアラフィフライフを楽しむ"よこみ"との何気ない日々を綴るブログ。

こんにちは!私たちは、アラフィフの"Tabibito"と、パートナーの"よこみ"です。充実した人生を送りながら、穏やかな時間を共に過ごしています。

私たちの暮らしは、忙しかった多忙な日々から離れ、自然や趣味を大切にするシンプルなものに変わりました。朝はゆっくりとコーヒーを楽しみ、晴れた日には散歩やハイキングで新しい発見を求め、夜は美味しい料理を共に作り、穏やかな会話を楽しむ。そんな日常が私たちの幸せです。

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・アイキャッチ画像は最近覚えた「whisk」でジブリ風に作成しています。

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