第二十八章『写真のなかの声』【明治葬儀社編】

第二十八章『写真のなかの声』【明治葬儀社編】
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明治葬儀社に届けられた一通の封筒には、一枚の古びた白黒写真と、未投函の手紙が入っていた。旅人が読み解くのは、“残された言葉”の重さと、“語られなかった声”の存在――。

― 遺影の裏に残された記録と、声にならなかった言葉 ―

午後の光が事務所の窓際に傾きはじめた頃、川口茉莉が一通の封筒を手に、旅人のデスクへやってきた。

 「これ……今日届いてた。差出人はないけど、旅人さん宛やって」

 旅人は一礼し、封筒を受け取った。  表には細い万年筆の文字で「風野様」とだけ。裏面には何も書かれていない。

 そっと中を開くと、古びた白黒写真が一枚と、折られた便箋が入っていた。

 写真には、昭和の終わり頃と思しき町の一角、和服姿の中年女性がこちらに背を向けて立っている。  少し先には、誰かがこちらに手を振っている姿も映っている。だが、どこか遠い。

 便箋には、こう綴られていた。

 「お世話になりました。母が生前、『この写真だけは残しておいて』と言っていました。  理由は分かりません。でも、葬儀のあとに思い出したんです。  あのとき、旅人さんが黙って差し出した花、それを見て母は少しだけ笑ったんです。  きっと、声にならなかった何かが、そのとき母に届いたんだと思います」

 読みながら、旅人はまぶたの裏に、うっすらと微笑む老婦人の姿を思い出した。  静かで、声をほとんど発さなかった女性。喪主は娘で、病院から直接斎場に運ばれたという。

 あの日、旅人が棺の脇に添えたのは、小さな一輪の椿だった。  寒さに強く、冬の式にはよく似合う。

 (……あの笑みは、たしかに見た。誰にも言ってへんかったけど)

 彼は写真をそっと机に置き、便箋を折り直す。  その背後から、静かに近づいてきた美月が声をかけた。

 「どうしたん、その顔」

 「……写真、やねん」

 美月が肩越しにのぞき込み、目を細めた。

 「これ、ええ写真やな。誰かに見せたかったんやろな、この風景」

 旅人は、ふとつぶやいた。

 「見せたかったんとちゃうかな。“聞いてほしかった”んかもしれん」

 「……声にならんかった言葉、か」

 「うん。写真って、そういう“声”を閉じ込めとるんかもな」

 その夜、旅人は黒革の手帳に記す。

1995年12月6日。無記名の手紙と写真。老婦人の微笑。 声に出ない思いは、確かに誰かに届くことがある。 言葉より先に、手渡された風景が残る。 小生、今日ひとつ思う。“祈り”とは、声ではなく、残る風だ。 写真は、その風が吹いた痕跡かもしれぬ。

 窓の外で風がカーテンをゆっくり揺らしていた。旅人は小さく目を閉じた。

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悠々自適なアラフィフライフを楽しむ"よこみ"との何気ない日々を綴るブログ。

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