第二十二章『父の墓前、途切れた対話』【明治葬儀社編】

第二十六章『骨壺の持ち方、声をかけるタイミング』【明治葬儀社編】
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突然の訃報により、旅人は大阪へ帰る。父の死を受け止めきれぬまま向かった墓前で、彼はかつて果たせなかった“対話”と向き合うことになる――。

― 旅人、大阪へ帰郷す ―

電話は、早朝に鳴った。
 灰色の空が、窓の外でじわりと明るくなりはじめた頃。
 旅人は、受話器の向こうにいる姉の声をただ聞いていた。

 

 「……今朝、病院で息を引き取った。お父ちゃん、ひとことも話さんと、あっさりやった」

 

 その言葉に、感情は湧かなかった。
 ただ、体の奥が急に空洞になったような感覚だけが残った。

 

 数日後。
 旅人は新幹線に揺られ、久しぶりに大阪の街に降り立った。
 秋の風がどこか冷たく、駅の階段を降りるたびに“過去”の匂いが立ち上がってきた。

 

 父が眠る墓は、小さな丘の斜面にある共同墓地の一角にあった。
 草は伸び、石碑は少し傾いていた。

 

 手には、ひと束の菊と線香。
 墓前に立っても、言葉は出てこなかった。

 

 「……親父」

 そう、ぽつりと呼んだ。

 「俺、今、葬儀の仕事してる」

 声が風に流れた。
 どこかおかしくて、旅人は少し笑った。

 ふと、かつて父と交わした最後の“まともな会話”がよみがえった。
 あれは、東京へ出る前夜。
 ちゃぶ台の向こう側、湯呑みを持った父は、新聞をたたみながらぼそっと言った。

 

 「仕事いうんはな、“人の前で手ぇ抜いたら終わり”やぞ」

 

 旅人は何も返さず、ただ視線を伏せていた。

 

 「見てるやつ、おらんようで、よう見てる。誰がって? 自分や。自分の心が見とるんや」

 

 そのとき、旅人は反発しか感じなかった。
 “手ぇ抜かずにやってきたのに、なんでそれを言われるんや”と、胸がつかえていた。

 

 けれど、今は違う。

 今の旅人は、その言葉が“働くこと”だけでなく、“人を見送ること”に向けられていたのではないかと思う。
 派手な言葉を残す人ではなかった父。
 でも、あの短いひとことの中に、言い切れなかった“人生哲学”が確かに宿っていた。

 「昔、よう言われたな。『人の死ばっかり見て、どんな人生になるんや』って。
 ……でもな、いまの俺、ようやく“誰かの死”をちゃんと見送れるようになってるかもしれん」

 

 墓石は何も言わない。
 けれど、沈黙のなかに、いくつかの言葉が浮かんでは消えていく。

 

 「親父……あんたがよう言ってた“立つんはええけど、逃げんな”って言葉。
 あれ、ずっと腹立ってたけど、いま思えば、……よう守ってたわ、俺」

 

 その瞬間、目頭がわずかに熱くなった。
 もう会えない。もう返事はない。
 だからこそ、やっと言える言葉がある。

 

 「……ありがとう、とは言わん。けど、俺は、ちゃんとやってるで」

 

 線香を焚き、手を合わせた。
 秋の風がひとつ吹いて、花の香がわずかに揺れた。

 

 その夜、大阪の簡素なビジネスホテルで、旅人は黒革の手帳を開いた。

1995年10月27日、大阪。
小生、父の墓前に立つ。
対話は、終わったのではなく、途中で途切れた。
生きていたときには届かなかった言葉を、ようやく手向ける。
墓は返事をくれないが、沈黙は耳を澄ませれば、何かを返してくる。
今日は、“返らない問い”の前に立った日。

 

 部屋の灯りを消すと、天井に都会の光がぼんやりと映っていた。
 そのかすかな明るさが、今夜はなぜか、ぬくもりのように思えた。

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悠々自適なアラフィフライフを楽しむ"よこみ"との何気ない日々を綴るブログ。

こんにちは!私たちは、アラフィフの"Tabibito"と、パートナーの"よこみ"です。充実した人生を送りながら、穏やかな時間を共に過ごしています。

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・アイキャッチ画像は最近覚えた「whisk」でジブリ風に作成しています。

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