第二十三章『通夜の料理、三世代の声』【明治葬儀社編】

第二十三章『通夜の料理、三世代の声』【明治葬儀社編】
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通夜の料理を準備する現場で、三世代の家族が交わすささやかな会話。その場にある“味”と“記憶”が、旅人に「生と死の間にある日常の重さ」を気づかせていく――。

― 家族を見送る場に残る味と記憶 ―

その日の夕方、空はやわらかな灰色をしていた。
 雲は低く垂れ込み、冷たい風が式場の暖簾を静かに揺らしていた。

 「旅人さん、通夜の料理、搬入きました」

 三好佳乃が控え室から声をかける。
 旅人は黒の上着を脱いで、受け渡し用のカートを押しながら式場の裏口へと向かった。

 

 届いたのは、昔ながらの仕出し屋からの料理だった。
 ちらし寿司、筑前煮、煮しめ、なます。
 それに、やさしい甘さの玉子焼きが、木箱にぎっしりと詰められていた。

 

 「……ええ匂いやな。葬式やのに、腹減ってまう」

 川口茉莉がぼそっと言い、佳乃が「それ、言うたらあかんやつです」と苦笑する。
 旅人もつられて小さく笑った。

 

 その通夜は、古くから商店を営んでいた故人のためのものだった。
 集まったのは、子、孫、曾孫まで含めた三世代の家族たち。

 

 開式の前、控え室の奥で旅人は偶然、小さなやり取りを耳にした。

 

 「なあ、これ……おばあちゃんがよう作ってくれたやつやん」

 「そうそう、あの甘い卵焼き。毎週土曜のお昼に出てた」

 「でも、ちょっと味、違うなあ……」

 「……せやけど、においが一緒や。おばあちゃんの台所、こんな匂いやった」

 

 その声は、三世代の記憶をつなぐ細い糸のようだった。
 味や匂いが、言葉よりも深く、故人と過ごした“生活の断片”を蘇らせていた。

 

 式が終わり、家族が料理を囲んでいるあいだ、旅人は祭壇の花を整えていた。
 ふと、喪主である長男が控え室から出てきて、旅人に一礼した。

 「……ありがとうございました。今日は、ほんまに“通夜”って感じがして」

 

 「通夜、ですか?」

 

 「はい。明日があるって思える夜になった気がして。
 母が元気なとき、よう言うてました。“お葬式ってな、最後のごはんを一緒に食べる日でもある”って。
 “味のある思い出は、思い出の味になる”って、わけわからんことも言うてましたけど」

 

 「……いい言葉やと思います」

 

 式場を出た夜、旅人はタクシーを待ちながら、ふと夜風を吸い込んだ。
 どこかから、出汁の香りが微かに漂ってきた気がした。

 

 その夜、黒革の手帳にはこう記された。

1995年11月2日、通夜担当。
小生、“通夜の料理”に祈りのかたちを見る。
香り、味、音――それらは生きていた人の“生活”の記録。
人は、亡き人と“食卓”を囲むことで、その人をもう一度迎える。
弔いとは、死を見送るのではなく、生の気配をもう一度呼び寄せる時間かもしれぬ。

今日の通夜で、ある孫が玉子焼きの匂いから祖母の声を思い出した。
記憶とは、言葉ではなく感覚に宿る。
それは、祈りというより、帰り道の匂いに似ている。

……ふと、自分は誰の記憶に、そういう“匂い”を残せるのだろうかと考えた。
美月が時折見せる、誰かを見送るときのまなざし――
それを思い出すと、胸が少しざわつく。

彼女は“何か”を渡している。言葉ではなく、手のぬくもりのようなものを。

自分にも、そういう祈りが持てるだろうか。
いや、持ちたいと思っているのかもしれない。

それが、まだ灯りになっていない、
けれど確かに手の中であたたまろうとしている“何か”のように思えた。

 

 夜の街に、箸の音と、笑い声がかすかに混じっていた。
 葬儀の夜は静かだったが、そこにはあたたかな“湯気”が確かに立ちのぼっていた。

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悠々自適なアラフィフライフを楽しむ"よこみ"との何気ない日々を綴るブログ。

こんにちは!私たちは、アラフィフの"Tabibito"と、パートナーの"よこみ"です。充実した人生を送りながら、穏やかな時間を共に過ごしています。

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