第二十章『小さな灯籠流し』【明治葬儀社編】

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美月の発案で、社員数名と共に“灯籠流し”の慰霊行事を企画する旅人。形式に頼らない弔いのあり方と、葬儀社の一人ひとりの想いが静かに浮かび上がっていく――。

― 秋の終わりの川辺にて ―

風が冷たくなった。
 それは冬の足音というより、秋が“帰っていく”気配だった。
 日が暮れるのが早くなり、空の色が少しずつ淡くなる。
 ある日の終業後、風野旅人は社屋裏にある物置の前で、美月と肩を並べていた。

 

 「……これ、やりたいって言ったん、美月さんですか?」

 「うん。正直、思いつきやけど……やってみたかってん。こういうの、あんまないやんか」

 

 小さな段ボールには、折り紙で作った手のひらサイズの灯籠がいくつも入っていた。
 どれも不揃いだが、それぞれに違う紙や色が使われていた。
 旅人はひとつ手に取ってみた。そこには筆ペンで一言が書かれていた。

 「ありがとうと、さようならのあいだに」

 

 「誰が書いたんですか?」

 「それ、川口茉莉さん。照れ屋やけど、こういうとこ真面目やねん」

 

 夜七時。
 明治葬儀社の有志数名と旅人、美月は、近くの川辺に集まった。
 河川敷のベンチには、三好佳乃と田代蓮が手持ちの灯籠を並べている。

 

 「ほんまにやるんですか……これ、町内会とかに怒られたりせえへんのかな」

 「火は入れてへん。中に豆電球のキャンドル。川にも流さへん。置くだけ」

 

 村瀬浩平がごそごそとカバンから自作の灯籠を取り出す。

 「俺、これ、亡くなったおふくろのこと書いた。……初めてや、こんなん」

 

 やがて、灯籠たちは川の縁に沿ってゆっくり並べられていった。
 それぞれに、誰にも言わなかった祈りが書かれていた。

 「すまんかった」
 「もっと話したらよかった」
 「元気ですか」
 「あなたの背中が恋しいです」

 

 誰も大きな声は出さなかった。
 ただ、静かに風と川音のなかで、その“言葉たち”を浮かばせた。

 

 旅人は、手帳の切れ端に書いていた灯籠をそっと地面に置いた。
 そこにはたった一言――

 「まだ、会いたいです」

 

 美月が少しだけ旅人の手元を見て、何も言わずに頷いた。

 「……ほんま、灯りってええな。言葉って、灯すもんやな」

 「うん。あかんときは、消すこともできるしな」

 

 ふたりの会話に誰かが笑い、また沈黙が戻った。

 

 その夜、旅人はこう記した。

1995年10月14日。川辺。
小生、小さな灯籠流しに参加する。
人は誰でも、“忘れていない”ことを静かに確かめたい。
声に出さずとも、紙に書くだけで心が灯る。
明日を生きるための祈りは、派手じゃなくていい。
あの夜の灯りは、誰にも知られなくても、ちゃんとあたたかかった。

 

 川の水は音もなく流れていた。
 灯籠たちは流れず、けれど、そこに“止まる祈り”が確かにあった。

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悠々自適なアラフィフライフを楽しむ"よこみ"との何気ない日々を綴るブログ。

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