顧客の葬儀代支払い拒否をめぐって勃発した法廷バトル。葬儀会社側の支払い督促について顧客側は「恫喝された」と主張したが、司法判断は…
およそ、どんな商取引にも債務不履行のリスクはつきまとう。それが故人を悼む厳粛な儀式であろうと例外ではない。「無銭飲食と同じだ」と憤るのは、ある葬儀会社の経営者。
葬儀という〝サービス〟を提供した顧客から代金を踏み倒されたとして、司法の場に訴えた。一方の顧客側は思わぬ反論に打って出た。葬儀会社から支払いを督促される際、同社従業員に「恫喝(どうかつ)された」と主張。
精神的苦痛を被ったとして「慰謝料は葬儀代金と相殺する」と真っ向対立したのだ。弔いの決算は、果たして-。
・2016/11/15 11:00 産経WEST
ある葬儀会社が提供した葬儀サービスの代金支払いを顧客(遺族側)が拒否し、それを巡って法的争いへと発展したものです。葬儀費用の支払いを求める督促に対し、顧客側は「葬儀会社から恫喝的な態度で催促された」と主張し、不当な強要があったとして支払いを拒否。これに対し、葬儀会社は正当な請求であると主張し、訴訟となりました。
最終的な司法判断では、裁判所は「葬儀会社の督促行為は違法な恫喝や強要にあたるものではなく、通常の請求行為の範囲内」と認定。葬儀会社側の請求が認められ、顧客側に代金支払いを命じる判決となりました。
判決などから、事件の一部始終をたどってみよう。
家族葬50万円コース滞りなく
2015年2月某日。大阪府内のある女性は、葬儀会社の問い合わせメールに、メッセージを送信した。
「すぐに葬儀費用を用意することができないのですが、お待ちいただくことは可能ですか? もう祖母の呼吸が止まりそうなのですが」
さらに女性は「ホテル仕様の家族葬50万円コース」の見積もりを依頼した。まもなく女性の祖母は息を引き取った。
その翌日、女性は施主となる父親と一緒に葬儀会社を訪ね、事実上の契約書となる重要事項説明書などに署名した。通夜と告別式は滞りなく執り行われ、1週間後が支払期限とされた。
ここから事態は不穏な方向へと向かう。何のことはない、女性が葬儀代金を支払わなかったからだ。
事前相談で葬儀会社側は「予算がないのであれば、支払える範囲の葬儀にしたほうがいいですよ」とアドバイスしてくれた。
近年は葬儀のコンパクト化が進んでおり、家族葬のみならず、通夜をしない「1日葬」、火葬のみの「直葬」スタイルも少なくない。しかし、女性が選んだのは当初から挙がっていた50万円のコースだった。
葬儀会社側の懸念が現実になったというべきか、女性が言うには「銀行のカードが磁気不良となり、再発行手続きを取っているため金が下ろせない」のが理由だった。女性は月末までの日延べを要望した。
恫喝あったのか…食い違う説明
しかし、月末が近づいても決済されるような気配はない。葬儀会社は女性を事務所に呼び出し、事情の説明を求めた。この場面が後の訴訟での大きな争点の一つとなる。
以下は葬儀会社が主張する当日のやり取りだ。
事務所で女性と相対した従業員は男性2人と女性1人。支払いはいつになるのか、その点をただすと女性はこう答えた。
「祖母の口座でずっと年金の管理をしていて、その金で払おうと考えていたが、最初の支払日にカードが磁気不良になっていると分かり、銀行印を探すのに時間がかかってしまった。4本目の印鑑でようやく再発行ができることになり、それが来週には届くとのことなんです」
借金逃れのでまかせのようでいて、それなりに筋が通っていないこともない。だが、すでに疑念を深めていた従業員は鋭いツッコミで女性を追及していく。
「当初説明していた銀行名と違いますよね?」
女性は「2つの銀行にそれぞれ口座があり、両方ともカードが磁気不良で使えない」と返答したが、当然納得はできない。
「ここまで何回も話が変わると、私たちとしても信用できなくなってしまいます。今月中に全額お支払いいただけないと困ります。どなたか親族の方で借りられる方はいらっしゃいませんか」
「うーん。おじさんになら借りられるかも」
でもどうなるか分からないと、女性は明言を避けた。しかし葬儀会社からすれば、うやむやで済ますわけにはいかない。従業員は翌日までに必ず代金を払うという趣旨の誓約書を差し出し、女性はそれにサインして帰宅した-。
一方、女性の言い分は葬儀会社とはまったく違う。以下は女性の記憶している事務所でのシーン。
応対したのは3人全員が男性だった。女性は「あと1週間待ってほしい」と懇願したが、男性従業員らはにべもなく突っぱねた。「明日絶対に払え」
女性の再三の訴えにも男性従業員らは目をつむり、聞く耳を持たない。
女性「私がお支払いすると言わない限り、家に帰してもらえないのですか」
従業員「そうです。あなたを帰せないし、僕らも帰りません」
従業員はその場で、親族に借金を申し込むよう女性に要求した。何が何でも払えという強硬姿勢で、1時間にわたって「怖い思い」をしたという。
自宅まで押しかけて…
面会の翌日。女性は弁護士に一部始終を伝え、葬儀会社の恫喝的な取り立てについて責任追及したい旨を伝えた。弁護士は葬儀代金は支払うべきだと意見を述べたうえで、「前日の請求行為には問題があり、怖い思いをしたのであればそれを踏まえて解決すべきだ」と助言した。それから、弁護士は葬儀会社側に電話をかけ、以後は自分が窓口になる旨を伝えた。
しかしこの日の夜、再び〝事件〟が起きる。
女性が弁護士のもとから帰宅すると、自宅前に葬儀会社の従業員らが乗ったワゴン車が止まっていたのだ。この場面が、訴訟でのもう一つの争点となった。
「金返せ!」「金払え!」
女性側の主張によれば、従業員らは大声で怒鳴り散らした。居合わせた女性の父親が「きちんと弁護士を通してほしい」と言っても収まらず、1時間以上も罵倒されたという。
一方の葬儀会社は「恐喝とされるのはぬれぎぬだ」と否定する。
確かに自宅まで押しかけた。しかしそれは、支払期日なのに女性から連絡がなかったから。女性の弁護士にも事前に伝えていたため、その場に弁護士もいると考えていたという。だが女性らは「お金は用意している」としながら「しかし払わない」と矛盾したことを言った。あえて従業員を挑発して怒りを誘い、「恫喝だ、脅迫だ」と後で主張するのが狙いなのかと、うがった見方をしたくなるような対応だったというのだ。
双方の言い分は大きく異なるが、自宅前でトラブルになったのは事実だろう。現場には葬儀会社側の連絡で警察官2人も臨場。葬儀会社によれば、警察官は「詳しい事情は分からないが、支払うべきものは支払わなければいけないのでは」と女性らを諭すほどだった。
司法判断は…
結局代金は支払われず、業を煮やした葬儀会社が大阪地裁に提訴。一方の女性側は葬儀会社の不法行為を主張し、慰謝料は100万円を下ることはなく、葬儀会社の請求額と相殺すると反論した。
果たして恫喝的取り立てはあったのか。まずは事務所での面会シーン。今年7月の1審判決は、銀行名の変遷など代金支払いに関する女性の説明について「一貫性に疑問がある」と指摘した。
「ここで『明日中に全額払う』というまで、帰れないんですか」という女性の質問に対し、従業員側が「支払ってくれる日を決めてくれないと、自分たちも帰れません」と告げたことは認めた。ただ、この時点ですでに2度にわたり女性が支払いを〝飛ばし〟ている以上、その発言が不当なものであったとは認められないと判断した。
【感想】
葬儀は突発的に必要となり、大きな費用がかかるサービスであるため、金銭トラブルや誤解が生じやすい分野だと思います。今回の件では、顧客側が「恫喝された」と感じた一方で、裁判所が事実に基づいて冷静に判断し、請求行為自体は社会通念から外れるものではないとした点は妥当だと感じました。葬儀サービスにおいても「契約」と「サービス内容」「費用」の透明な説明がさらに求められると同時に、利用者側も冷静に取引の内容を確認し、感情的なトラブルを避けることの大切さを改めて感じました。今後も双方が適切なコミュニケーションを図れる仕組み作りが重要だと考えます。
全体として、亡くなった方を悼むための大切な場がこうした争いの舞台になってしまうのは、残念でなりません。
